all streets shibuya
A local guide made by walking
渋谷の大都会で見つけた
小さきものたち
Vol.14 xiangyu
(アーティスト)
2023.10.19
「入れ歯」、「かたっぽshoes」、「MANHOLE」、「ミラノサンドA」……xiangyu(シャンユー)さんは楽曲のタイトルそのままに、生活のなかで見つけた小さな事柄をリリックに昇華し、壮大なトラックに乗せて歌いあげるワン&オンリーなアーティストです。独自の音楽活動に加えて、アートや福祉など、さまざまな手法で社会にアプローチしていることでも一目置かれています。そんな彼女にとって渋谷区は、かつて専門学生としてすごし、いまも事務所通いをしている身近な土地。お気に入りの場所には、生活に寄り添うような空間ばかり挙がりました。これからめぐるコースのどこかに、新たな楽曲の種も眠っているかもしれませんよ。
独創的なスパイス料理店と
日々の参拝のための神社
「渋谷区で好きな場所はたくさんありますが、わりと新しいところだと『TYON』(タイオン)ですかね。南新宿の住宅街の一角にあり、見た目はふつうの民家。だけど店内は外観から想像もつかないような雰囲気になっていて、スパイス料理が本当においしいんですよ」
そう笑うxiangyuさんは、TYONからほど近い文化服装学院の卒業生です。昔から親しみのあった服作りとは違い、人前での歌唱はカラオケすら毛嫌いしていたほど。それがいまではライブやレコーディングに励む日々となり、よく参拝しているのが「代々木八幡宮」だといいます。
「幼いときからおばあちゃんに手を引かれ、神社にお参りしていました。清らかな気持ちになりますし、特別なことではなく生活の一部として、両手を合わせに行っています」
古きよき銭湯サウナと
表現の原点であるファッション
代々木八幡宮と同じくxiangyuさんが日参しているのが、代々木上原唯一の銭湯である「大黒湯」です。コインランドリーを抜けて、5階建マンションの1階に掲げられた暖簾をくぐれば、昭和レトロな銭湯空間が広がっていました。
「2日に1回のペースで通うこともあります。サウナーではありませんが、銭湯のサウナが好きなんですよ。地下水を汲みあげているおかげか、水風呂もお湯も肌触りが気持ちいい。日付をまたいでも営業しているので、ライブやレコーディング終わりに汗を流せるのがありがたいですね」
銭湯にも劣らず彼女の生活から切り離せないのがファッション。高校時代から表現活動に取り入れ、ホームセンターで買った軍手やブルーシートで服作りをしていたと話します。
「だから、古着店に行くのも好きですよ。いまは通販も簡単ですが、私にとって試着はマスト。必ずお店で確認するようにしていて、原宿の『TOGA XTC』はセレクトが好きなのでよく買いに行っています」
南アフリカの音楽と
宇田川町の熱帯音楽食堂
人前でのパフォーマンスが苦手で、音楽よりもファッションが好き。そんなxiangyuさんが音楽活動を始めたきっかけは、水曜日のカンパネラのDir.Fとして知られる福永泰朋さんのスカウトでした。6年越しのオファーを受諾して、楽曲のベースには南アフリカの新世代ハウスミュージック「GQOM」のサウンドを採用しています。
渋谷でアフリカといえば、元音楽家の店主が営む「Los Barbados」を挙げないわけにはいきません。
「ランチに来たり、夜にお酒を飲んだり、友だちの家にテイクアウトしたり。『ヴェジタリアン・マッツァ』はファラフェルが絶品で、ボリュームたっぷりなのでおすすめ。心地いい距離感での接客も、繰り返し通ってしまう理由です」
生き急ぐ街で生まれる
小さきものとクリエイション
「渋谷駅からなんて普段は歩かないから、新鮮ですね。こうやって高層ビルを見上げたり、ビジネスマンとすれ違ったりしていると、私もがんばろうという気持ちになります。渋谷はエネルギーをくれる街ですね。田舎に興味はありますが、今は考えられません。あと10年くらいは東京で……いや、10年後なんて分かりません。今やっていることだって、5年前でさえまったく想像できませんでしたから」
自主企画イベントを何度も開催している恵比寿の「KATA」への道すがら、xiangyuさんがそんな言葉を漏らしました。眼下に流れているのは渋谷川。文化服装学院の同級生であるPERMINUTEデザイナーの半澤慶樹さんとともに、川沿いのゴミから人々の生活や都市の成り立ちを記録するプロジェクトをここで開催したこともありました。
「渋谷は人や物にあふれていて、流行が生まれもしますけど、消え去るのも早い。生き急いでいる街だから、小さいもの、小さい居場所に目が留まりやすい私にとってはぴったりな環境なんです。別の街で活動していたら、私のクリエイションも全然違うものになっていたかもしれませんね」