all streets shibuya
A local guide made by walking
渋谷がコーヒータウンと
呼ばれるようになるまで
Vol.15 坂尾篤史
(ONIBUS COFFEE代表)
2024.03.10
渋谷を歩けば、きっといくつものコーヒーショップを見かけるでしょう。世界的なチェーン店から、個性あふれる個人店まで。スペシャルティコーヒーを提供する店も増えています。でも、渋谷がコーヒータウンとして急成長したのはこの10年の話。その立役者となったのが、「ONIBUS COFFEE」をはじめとする先進的なコーヒーショップです。坂尾篤史さんは2012年に奥沢で1号店をオープン後、「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」として道玄坂に進出。「all day place shibuya」の1階にもコーヒースタンドを構えています。コーヒーショップの経営者は渋谷をどう見ているのか、街をいっしょに歩きながら教えてもらいました。
コーヒーカルチャーを
渋谷から発信する
坂尾篤史さんが無駄のない動きでハンドドリップのコーヒーを淹れてくれます。豆は自家焙煎をしたスペシャルティコーヒーで、中南米など農園に自ら足を運んで持続可能な取引をしているものばかり。「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS 渋谷一丁目」のカウンターから、店内のにぎわいに手応えを感じているようでした。
「若い方や海外からのお客さまが多いから、渋谷の街にはエネルギーを感じるんですよね。これが奥沢の『ONIBUS COFFEE』だと9割以上が地元の常連客。コーヒーカルチャーをもっと広めていきたいと思って、多種多様な価値観の人々が集う渋谷に出店しました」
オーストラリアの経験から
街に開かれた空間を目指して
坂尾さんは2006年にオーストラリアを旅して、コーヒー先進都市のカルチャーに衝撃を受けたと振り返ります。
「メルボルンではコーヒーショップが日常的な存在でした。店員や常連客とたわいもない会話をしながら、おいしいコーヒーを飲む生活。たった一杯のコーヒーがあるだけでなんて豊かな毎日をすごせるんだろうと感動し、いつか自分の店を開きたいと決意しました」
理想とするのは、街に開かれた空間。コーヒーショップではないものの、一軒のビストロを例に挙げました。
「代々木八幡の『PATH』は朝から焼きたての自家製パン ド カンパーニュやサンドイッチが食べられて、夜にはワインバーに様変わり。内装も含めてすべてのクオリティが高い。日常に寄り添うオールデイダイニングだと思います」
尊敬し、いまなお通う
渋谷のコーヒーショップ
街に開かれたコーヒーショップを目指して坂尾さんが「ONIBUS COFFEE」を創業した同年、日本1号店として渋谷に上陸したのが「FUGLEN TOKYO」でした。
「北欧のヴィンテージをベースにしたデザインに一目置いています。木製のサッシとかカウンターの高さとか、ディテールまでプロフェッショナルな空間です」
自らの店でコーヒーを飲む日々ながら、それでも足が向くコーヒーショップとしてもうひとつ挙げました。
「千駄ヶ谷の『BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK』には影響を受けました。2010年にオープンした先駆け的存在。当時はコーヒーの情報が全然なかったので、よく店頭で意見交換をしていました。今日もサクッとエスプレッソを飲んでいってもいいですか?」
渋谷で刺激し合う
バーテンダーからの言葉
「東京でコーヒーショップが増えたのは、本当にこの10年くらいなんですよ。いまではコーヒー豆の焙煎度合いや生産国による違い、スペシャルティコーヒーの存在も少しずつお客さまに浸透し、自宅用に豆を買っていかれる方が格段に増えました。でも、メルボルンと比べたらまだまだ。僕らのような中小企業の店や個人店がもっともっと増えていったら、渋谷も世界に引けをとらないコーヒータウンになれると思います」
渋谷が食の最先端なのはコーヒーに限らないけど、と坂尾さんは付け足しました。夜なら「Bar werk」でカクテルか、「Le cabaret」でナチュラルワインを飲むことが多いそう。お酒、サービス、雰囲気のいずれにもプロフェッショナルの意識を感じつつ、客がなじみやすいように開かれていると魅力を語ります。
では、それらの店主に坂尾さんのコーヒーショップはどのように映っているのでしょうか。旧知の仲である「Bar werk」の成田玄太さんが最後に教えてくれました。
「坂尾くんの店はマニュアルと無縁の接客ながら、どのスタッフもたわいもない会話からコーヒー愛が伝わってきます。彼が憧れたというコーヒーカルチャーは、きっともう体現できているのでしょうね」