all streets shibuya
A local guide made by walking
クリエイティブな街に身を置き
感性が磨かれた渋谷の日々
Vol.04 古谷知華
(フードプロデューサー・起業家)
2022.08.10
古谷知華さんは日本の里山植物の可能性を研究し、新たな食品を開発するフードプロデューサーです。クラフトジンやソーダシロップなどの木食プロダクトを展開する「日本草木研究所」の活動が2022年から本格化。「ともコーラ」は全国500店舗に流通し、近年のクラフトコーラブームの草分け的存在として知られています。そんな彼女が最近まで、大学時代から暮らしていたのが渋谷でした。新しいこと、クリエイティブなことをしようとする空気感がある街に身を置くことで、自らも感性が磨かれたといいます。街のエネルギーを感じようと、幡ヶ谷周辺を歩きに出かけました。
チャレンジを後押しした
幡ヶ谷の日常的風景。
「何年かしたら渋谷に戻りたくなるんでしょうね。5年、10年……いや、2年後にはそうなっているかもしれません(笑)」
そう話すのは、今年まで約10年にわたり渋谷で暮らしていた古谷知華さんです。とくにお気に入りなのが、近年活気づく幡ヶ谷エリアだと言います。
「カフェとかレコードショップとか、私の少し上の世代のプレーヤーによるすてきな個人店がどんどんオープンして、街が生まれ変わっていく過程を間近に見られました。私もなにか新しいことを始めようと思えたのは、そうした景色が幡ヶ谷の街では日常的にあって、心理的なハードルが下げられていたからのように感じます」
帯状につながる街で
のびのびと発揮される個性。
「私は東京の東のほうの出身なんです。『日本草木研究所』や『ともコーラ』をやっていますとなっても、地元だとどこまで受け入れられていたか……(笑)。若いプレーヤーが多く、それぞれが個性を発揮している幡ヶ谷のような街は、東京でもきっとめずらしいでしょうね」
たまたま意中の物件が見つかったことから、泣く泣く渋谷区を出たという古谷さんに、離れて気づいた街のよさをさらに挙げてもらいました。
「幡ヶ谷から渋谷までって街が地続きというか、地域が帯状につながっているような感じがします。いま住んでいる街も都心ですが、大きな道路に地域が区切られているように感じ、渋谷ののびのびとした雰囲気がたまに恋しくなりますね。あとはやっぱりクリエイティブの活気。好きなことにチャレンジをするプレーヤーがたくさんいて、SNSではなく生の情報に刺激をもらえるのも、渋谷ならではでしょうね。Epoはまさにそういうお店だと思います」
植物の可能性を示す
ラボ併設のヘアサロン。
「Epo Hair Studio」は代々木上原で話題のヘアサロンです。店内は蒸留機や精製機が置かれ、まるで植物研究所のよう。それもそのはず、併設のラボでは、サロンで使うシャンプーやトリートメントを製造しています。原料の植物は国内外の生産者から直接買い付けたり、スタッフ自ら野山で収穫したり、店内のファクトリーで育てたり。
「ヤバいヘアサロンがあると思って、私もヘッドスパを2回受けに来ました(笑)。最高に気持ちよくて、なんかこう……落ちていく感覚なんですよね。海外の植物を使っているのも、日本の里山を舞台にしている私には新鮮で勉強になります。いつか日本草木研究所でもこんなラボを持ちたい、そんな刺激をもらえるような空間です」
独創的な皇膳料理と
オーセンティックな空間。
幡ヶ谷周辺はEpoのようにこだわりを突き詰めたクリエイティブなお店が多く、街を歩けば感性が刺激されると古谷さんは言います。好きな飲食店を尋ねると、名前が挙がったのはいずれもセンスが際立つ空間でした。
「『龍口酒家』はめちゃくちゃ好きですね。数えきれないほど行きました。皇膳料理を出すお店で、シェフ自体が皇帝のような存在感。ここでしか見られないような中国食材や薬酒がたくさんありますし、クロレラを麺に練り込んだ翡翠色の『里麺』がマジでおいしんですよ。本当にやみつきなので、引っ越すときには冷凍麺を爆買いしました(笑)。店主のこだわりでいえば『バーナカガワ』もすばらしいです。店内はオレンジ色の照明で、桜の木のカウンターやノルウェーの名作イスがあり、壁は漆喰というオーセンティックなバー。私にはスタンリー・キューブリックの映画に思えるほど、世界観が徹底されています」
古谷さんが口にした生の情報とは、渋谷で磨かれたお店の感性そのもの。街のエネルギーは、そうした空間にこそあるのかもしれませんね。